スタジオを抜け出した待合い室。
口から吐き出された煙が宙をたゆたう。
苛々していた。
作業も感情も、いまいち上手くいかなくて。
どうして伝わらないのか。
お互いの主張を強めたまま不毛な争いをしているような気になって、そんなことを繰返すうちに果たしてそれが本当に自分の伝えたいことであったのかどうかすら分からなくなってくる。
いつもより俄然、早いペースで減っていく煙草。
そんな事実にさえ苛ついて、煙と共に溜息を吐き出した。
「hydeさんっ」
声に気付いて入り口の方を見ればしばらく逢えていなかった恋人の顔。
むけた目線にいつもの人懐っこい笑みを浮かべて手を振ってくる。
「このスタジオって聞いたんで、近くまで来たから寄ってもうた」
隣に腰を下ろして、また笑ってくれる。
近くで話せば少し息が上がっていることに気付いた。
どうやら走って来てくれたらしい。
それでもはにかんで笑顔のままそんなことを言ってくれるyasuに笑ってやろうと試みたけれど、
いまいち向けられる笑みが作れなくて。
「そっか」
できるだけ重々しい感情を出さないように返事を返すのが精一杯だった。
幸いにも嬉しそうにしている彼には気付かれていないようで、内心安堵する自分が情けなくなる。
「今、平気やった?休憩中?」
「うん、まあそんなとこ。」
実際はどうにもうまくいかなくてこの場に逃げてきたようなものだけれど。
それがなんとなく言えなくて、そんな弱味すら見せられずに独りで苛々する自分が酷く滑稽だ。
そんな自虐的な気持ちを抑え込むように、話を変えた。
「yasuくんは、こんなとこ居ってええの?」
その質問にびっくりしたようにyasuは答える。
「俺は、hydeさんに逢いたかったから来たんやで?せやからええねん。」
どうしてそんな風に笑えるんだろう。
いつものように他愛も無い話を楽しそうに話してくるyasuの声を聞きながら、頭の中で悶々と考えていた。自然と煙草に手が伸びた所で、ふと話が途切れた。
「外行かへん?」
「は?」
唐突に切り出された提案。
不思議そうにそちらを見る俺に、yasuはもう一度言った。
「時間大丈夫やったら、外行かへん?」
*
突然の提案だったが断る理由もなく共に外へと出た。
作業が気がかりではあったけれど、このまま戻っても何も変わらないことは目に見えていたし。
外の空気は少しひんやりとしていて頭を冷やすには調度良い。
寒くない?と気遣ってくれるyasuに、大丈夫。と返す。
今度は少しは笑えていたのだろうか。
何を目的とするでもなくぶらぶらと歩いて、その途中不意にyasuが切り出した。
「hydeさん、手」
「手?」
聞き返した俺に頷いて手をとった彼は、その手に自らの手を添えて握った。
誰に向けるでもなくにっこりと笑ったyasuはそのまま何事も無かったかのように歩みを進める。
「ちょっ・・・待っ・・・」
慌てる俺に、嫌?と聞き返してくる。
悪びれも無いそんな表情に思わず口ごもりながら、
「嫌やないけど・・・」
恥ずかしい。と発する前にじゃあ良かった、とまた歩き出す。
仕方なくそのまま引かれるように歩く。
つないでいる手から伝わってくるぬくもり。
しばらくしてyasuはつないでるほうの手を俺の手ごとポケットへと入れた。
強引にもぴったりとくっつくような形になって少々恥ずかしいながらも、心地の良い暖かさを感じていた。
「何、苛々してはったん?」
yasuは歩く先、遠くを見つめながらさらりと言った。
思わず足を止めてしまうと、自然と相手の歩みも止まった。
「・・・え?」
「さっき・・・なんやしんどそうやった」
「・・・・・・・・・」
うまく隠したつもりだったのに、まさか気付かれていたなんて。
まるで自分までも同じ気持ちで有るかのように、表情を歪めるyasu。
先刻までの笑顔を曇らせてしまったことに、罪悪感を感じてしまう。
「な、なんて顔してんねん。」
慌てて弁解を試みるも、yasuの表情はなかなか晴れなくて。
yasuは握っていた手をより強く握って話し出した。
「俺の前では、感情押し込めんでや」
「・・・・・・。」
「俺はhydeさんの全部を受け止めてあげたいねん」
その決意を表すかのように強く握られる手。
凄く嬉しかった。
我に帰った彼は少々恥ずかしそうに目線を反らして、それでもしっかりと手を握ったまま。
「なんや恥ずかしいこと言ってもうたけど・・・ほ、ほんまやからっ」
照れながらちょっと俯く表情が凄く可愛い。
そして、その気持ちが凄く嬉しかった。
自然と口から笑いが零れて、俺は今日初めて笑った。
「ははっ、yasu君、可愛いなぁ」
「・・・っはぁ?///」
隣で突然笑い出した俺に、拍子抜けした声で返事が返ってきた。
何か言いたそうにしているけれど、笑いが止まらない。
「hydeさん・・・俺は本気で言うたんすよー?」
どうやら自分の言った事に対して笑っているのかと勘違いしたのか、少々憮然として言ってきた。
そういう訳では無いのだけれど、何故か笑いがこみ上げてきた。
可笑しいというより・・・凄く嬉しくて。
「分かってる、分かってる」
治まってきた笑いの尾をひきながらそう答えた俺に、未だ憮然としない表情でぼやく彼に、
「ほんまに嬉しい。ありがとう」
優しく微笑みながら言ってやる。
そうしたら、憮然としていた表情にさっと紅みがさしていって。
思い通りの反応に、そんな素直な所も可愛いなぁと内心で思ってまた嬉しくなった。
それから、作業がいまいち上手くいっていなかったこととか、それで苛々してたこととか・・・、色々と話をして。その横でずっと手を握ったまま静かに聞いていてくれた。
何を言うでも無いけれど、ただこうして話しているだけでもだいぶ心の重みがとれた気がして。
まあ、それ以前に彼と逢ったことで気持ちが癒やされていたのかもしれない。
だって、今日手をつないだあの時から、部屋で感じていた感情はまったく消えて、
いつのまにかつないだ手から伝わってくる温もりに心をゆだねていたから。
*
「あ・・・そろそろ行くな」
その後もしばらく他愛もない話をした後、ふと時計を見やり切り出した。
名残惜しくも離れていく手の温もり。
次に逢えるのはいつだろう・・・なんて柄にも無く考えてみたり。
「hydeさん!」
呼び止められ振り返った所をくいと引かれて、唇に暖かいものが触れた。
触れるだけの柔らかい接吻。
「上手くいくおまじない」
バイバイと手を振りながらはにかむ。
そんな彼に心から笑えたから。
もう大丈夫だと、なんとなく、けれども確信を持ってそう思えた。
スタジオへと戻る足取りは軽くて、小さく微笑んだ。
与えてももらった温もりを思い出しながら...
end.
◆COMMENT◆
本当は拍手用に書いていたのですが、思ったよりも長くなってしまったので(汗
yasu君にえらいこと言わせてしまった・・・hydeさん大好きでへたれてなんぼなのに。
でも「ありがとう」て言われて照れちゃうあたり、やっぱりhydeさんペース。
そんな所にヤスハイ感が出せてたら良いなぁ・・・とか思う今日この頃。
そしていつhydeさんのyasu君の呼び方を「yasu君」から「yasu」に変えようか、
未だにタイミングを逃してます。(笑
ヤスハイは、ヤスバ小説とバレンタイン小説、両方が途中のまま止まってます。
・・・というか、ヤスハイばっかりで需要と供給が合っているのだろうか。
明らかに供給が多すg・・・・・・(痛)ごめんなさい。
2005.03.10
Heavenly Feathers 管理人
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