I'm always ...  


 こうして彼と身体を重ねるのは幾度目だろうか。


 隣で眠る彼を見つめながらふと想った。

 付き合っているわけでもない。
 大切な人から離れて心を閉ざしたままの彼は、きっと誰も愛さないだろうから。
 整った眉が苦しそうに歪んだ。
 きっとまた悲しい夢でも見てるんだろう。

 その歪みを和らげるようにそっと口付けを落とした。


 ―――― 夜がまた明けていく。



*



「hydeー?これ、何処置く?」

昼間はとても日差しが良くて窓から差し込む光が部屋を照らし出す。
tetsuとkenは、hydeの家の整理を手伝っていた。

「あ、んー・・・そこらへん置いとって。」
「そこらへんって・・・どこやねん!!」

アンテーク調のフレームのついた大きめの鏡を持ったまま、kenは室内を徘徊する。

「そこ置いたら?調度ええんちゃう?」

重そうに文句を零すkenを促してスペースの開いた部分を指差した。
そこに鏡を置くや否や、kenはtetsuの時計を除きこんだ。

「うあ、もうこんな時間やん!俺用事あるし帰るな。」

気がつけばあたりももう夕暮れ時で、薄っすらと夜の帳は落ち始めている。
申し訳無さそうに言って玄関へと走っていくkenを御礼を言いつつ見送ったhydeがリビングへと戻ってきた。

「もうちょっとやし・・・さっさと片付けるか」

大きく伸びをして、自分にも一喝入れる。

「そうやね。あ、けどその前にちょっと休憩入れようや。」

キッチンへと向かおうと立ち上がったhydeが棚の横を通り過ぎた時、
ぶつかった衝動で一枚の紙がひらりと舞い落ちた。

「hyde、なんか落ちたで――・・・」

何気ない気持ちでその紙へと手を伸ばす。

「え?・・・あっ!!」

その紙を拾い上げた俺の目線が止まったと同時に、hydeがその紙を奪うように引き寄せた。

「・・・見た?」
「・・・うん。」

極まりの悪い表情で聞いてくるhydeと同じテンポで俺は答えた。

そう、舞い落ちた紙は写真。
そこに映っていたのは紛れも無い俺も良く見知った人物。
sakura。

「・・・ごめん」

申し訳無さそうに俯いたhydeは、写真を握った手を隠すように後ろへと回した。
その姿がとても切なくて・・・。

「なんで?」

なんで謝ったりするのか。
そんなこと分かっているのに・・・。

貴方が今でも彼を想っていることなんて、一緒に居れば簡単に理解できる。

「だって・・・」

何か言いたそうに、けれど口ごもってしまうhyde。
それでも彼の言いたいことはなんとなく分かる。

hydeは、俺がhydeを好きなことを知ってるから。
それを知った上で身体の関係を持っているから。

きっと・・・俺に対しての罪悪感。
だからそんなにも苦しそうな表情で俯くんだ。

そんなこと気にしなくてもいいのに・・・。

俺が・・・
俺が勝手にhydeのことを想ってるだけなんやから・・・。

「忘れなきゃいけないって分かってる。いつまでも引きずってたらあの人にも迷惑やから・・・」

そこまで言ってhydeはまた俯いて黙り込んだ。

そんな訳無いやろ、と内心で呟く自分が居る。
どこまで純粋に信じてしまっているのか。
あんなにもhydeを大事に想ってきた彼が本気で嫌いになって分かれたと想っているの?
その姿が痛々しくて、俺はそっとhydeの頬へと手を伸ばした。

「てっちゃん、もうこんな関係辞めよ・・・?」

不意に顔を上げたhydeの瞳は今にも泣き出しそうだった。

「俺、こんなキモチのままてっちゃんの優しさに甘えるなんてできへん・・・」

また俯いてしまったhydeに、涙がこぼれてしまわないかと冷静に考える自分と。
真っ白な頭で呆然と考える自分とが交錯する。

"てっちゃんに申し訳なくて"
"てっちゃんは優しすぎるから"

hydeの零す言葉が一つ一つ心に刺さる。

「そんなん気にせんでええよ。」

にこりと微笑を作って軽く頭を撫でた。
目じりに涙を貯めたhydeの瞳が此方を見つめる。

俺はその瞳が見れなくて・・・。

「さ、早よう片付け終わらしてまおうや。」

立ち上がろうとした時、耳に届いた紙を裂く音。

「・・・ちょっ、hyde!何しよるん!!」

俺は咄嗟にhydeの腕を掴んだ。
hydeの手には、数センチ裂け目の入った写真。

「hyde?」

俺は小さくhydeに呼びかけた。

大切にしてたモノやろ?
なんでこんな・・・

「てっちゃん・・・俺、てっちゃんと付き合うわ。」

顔を上げたhydeはにっこりと笑った。

「・・・は?」

状況が飲み込めずそんな情けない声しか返せなかった。

「もう綺麗さっぱり忘れるで。」
「忘れるって・・・」
「せやってな、アイツ、放っとくとすぐ女の子と浮気するし、『好き』なんて全然言うてくれへんかったし、
アイツのほうからどっか連れてってもらったことなんて一度も無かったんやで?」

聞き返す俺の声なんて聞こえないかのように淡々と話し出すhyde。

「いつだって焦がれとったんは俺のほうやし・・・最後・・やって・・・・っ」

息も吐かずに続けていたhydeの声が途切れた。
背けた表情なんて見なくても分かる。

「hyde・・・もうええよ。」

写真を持つ手が震えているのが、皮肉を並べた言葉の奥にある心境全てを物語る。
俺はそっとhydeを抱き寄せた。

「忘れなアカンて分かってても・・忘れることなんてっ・・できへんっ・・・―――〜っ・・・・・」

胸に顔を埋めて泣き出したhydeの髪をそっと撫でた。

「最後やって、いきなり"バイバイ"言われたって…っ…分からへんやんっ……」

顔を埋めたまま途切れ途切れに言葉を零すhyde。
そんなhydeを見ているのは痛々しくて、胸がはちきれそうになる。

「忘れへんでええやん。」

不意に出た言葉にhydeが顔を上げた。
目には一杯の涙を貯めたままの瞳で…。

「大切なもんやろ、忘れる必要なんかあらへんやん。」

そう、忘れる必要なんてあらへん…。
俺の応えにhydeは小さくだけれど頷いた。

「……――っ、ごめ…ん……」

そしてまた俺の胸へと顔を埋めた。


頬を流れる涙が切なくて。
そんな貴方を見ているのが痛々しくて…。

俺は強く抱きしめて、彼の唇へと口付けを落とした。

深い、深い、息もできないくらいの長い口付けを。
全てを奪い去って何も考えられないように。


その少しの間だけでも、苦い現実から逃れられるように。



*



 貴方が彼を忘れられないのは分かっている。
 そして、むりやり忘れる必要なんて無いから。

俺は寝息を立てる彼の横にテープで張り合わせた写真を置いた。


 それでも貴方と身体を重ねるのは

 ほんの少しの間でも、貴方が苦い現実から逃れられるように。
 傷ついた翼を少しでも休ませられるように。

 やがて飛び立ってしまうかもしれない翼でも。


 俺は"愛してる"とhyde本人に告げたことは一度も無い。
 "愛してる"なんてただの束縛にしかならないから。


『愛してる…』
伝えられない言葉を小さく囁いて、彼を起こさないようそっと部屋を出た。


 いつかその閉ざされた扉が開くまで、
 俺はずっと貴方の名前を呼び続けるから。


 たとえそれが永遠でも…。




 I'm always knocking on your door

      I'm always ...




 end.




◆COMMENT◆

2001.07.07に書いたものを、訂正してリメイクしました。
サクハイティストなテツ・ハイ二人。
7月7日て・・・milky wayな日によくもこんな暗い話をアップしたな自分。
これを書いていた当時、最終的には甘いテツハイばかり書いていたので、
気持ちの離れたテツハイをアップするのが始めてに近かったので・・・
微妙にハラハラしてたと思います。

・・・というか、今でもハラハラしてます。(爆)
こういう話どうなんでしょうね?
個人的に切ないとしてもハッピーエンドが好きなので、こういう話あまり書けないのですが。
でもやっぱり切ないものは結構好物なので、嫌いなわけでも無いので。
・・・どうなんでしょうかね。(え)

まあ例の如く、初めての方も、再度読んだ方も、
両方に楽しんで頂けてれば良いなと思います。
では。

2005.07.01(リメイク更新日)
Heavenly Feathers 管理人

(初出し 2001.07.07)


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