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眼を閉じて深呼吸する。
緊張はしない。
精神統一のようなものだ。

久々のライブでも、それは変わらない。

tetsuが目を開けると、ふと視界の片隅に、自分と同じ様に眼を閉じてソファに腰掛ける彼の姿が見えた。
黙しているその顔が少しだけ俯くと、長い髪がさらりと肩から落ちる。

内に渦巻くどろりとした昂ぶるものを静めているような沈黙。
嵐の前の静けさのような。




ドアをノックする音が聞こえた。

――時間だ。

「行くで、hyde」
静かに彼の目が開く。






円陣を解散した後も、彼は黙ったままだった。
暗い通路をkenとyukihiroがステージへ向かって歩き出す。
その後に続く足取りが、心成しか重そうに見えた。
「…hyde?」
顔を覗き込んで名前を呼ぶ。
「…な、に」
はっと顔を上げたhydeの眼が一瞬、泳ぐ。
やっぱり、だ。

「…緊張してん?」
ここ。

そう言って、tetsuはhydeの左胸の辺りを軽く指でなぞる。
早鐘を打つように高鳴る鼓動は、胸元を見ているだけでも伝わってきそうだった。
珍しい緊張は久々すぎるライブのせいだろう、少し強張った表情は晴れない。

「…軽くセクハラやで?」
「うん、どっちかっちゅーとそれが狙いやねん」

そこで初めて、hydeが少し困ったような、泣きそうな表情で、しかし笑った。
少し気が和らいだのだろう。内心tetsuは安堵の溜め息をつく。
緊張ねぇ、とhydeは大げさに肩をすくめて、今度は真っ直ぐtetsuを見据え、笑う。

「俺を誰だと思ってんの?」

どくん、と大きく心臓が脈打った。
――ああ、ウチのバンドのボーカルがここにいる。
純粋に、強いな、と思った。

立ち尽くすtetsuの横を、hydeがすり抜ける。
小声ながらも、ありがとね、とすれ違いざまに、左の胸元を拳でとんと軽く押された。
やはり緊張はしていたのだと確信する。
hydeの触れた場所に自分でも指を這わせれば、
先刻のhydeに負けず劣らず高鳴る鼓動が指先に伝わって、tetsuは思わず苦笑した。
小走りで先を行く彼の背中を追う。


ステージへの階段を上りながら、思い出したようにhydeが振り返った。
追い討ちのように放たれる言葉。


「まあ、あえてドキドキしてるって言うならテッちゃんといるからかな」


逆光のせいで一瞬だけ覗いた顔がいたずらっぽく笑って、ステージへ消えた。
「…そら反則やろ…」
そう呟いて熱を持った頬を両手で挟むように叩く。

ある種の緊張を誤魔化すように咳払いをして、tetsuも歓声の中に足を踏み入れた。




 end.




◆COMMENT◆

葉月様から戴きました!テツハイ小説です。

半ば無理矢理に強奪したともいう・・・(笑)
初めて読ませてもらった時から惚れ込んだテツハイです。
さり気ない感じと、それでいてちゃんと通じ合ってる。
そんなテツハイ二人の関係が凄く素敵です。
私の理想とするテツハイかもしれない。(愛)そのぐらい大好きな作品です。
私もこんな小説書きたいです。

葉月ちゃま、半ば強引に強奪してごめんなさい。
でも本当に有難う!また素敵なテツハイ頂戴ね。


2005.05.19
Heavenly Feathers 管理人


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