Virus 相変わらずの炎天下での撮影後。 本日の撮影も終え、一息付く中 僕はハイドに声をかけた。 「今日これから飲みやるらしいんだけど、ハイドどうする?」 「あ・・・俺はええわっ、ごめんな」 そう言って笑う彼の笑顔には、いつもの元気がなくて・・・。 僕は、ハイドのことをすごく大切に思っている。 いわゆる愛情という想いで。 もちろんこの想いは彼にはまだ伝えてないけれど、 それでもいつかは伝えたいと思っている。 周囲からみれば、特異なことかもしれない。 けれど、彼に対して抱いた気持ちは 一般的に異性に感じる気持ちと同じで・・・ いや、それ以上かもしれない。 この気持ちは誰にも変えられない。 実際ハイドの気持ちも分からないから、 もしこの気持ちを告げてしまったら、彼を困らせてしまうかもしれないという不安も有る。 それに、彼の性格を考えても今はあまり負担をかけたくない。 だから、まだこの想いは自分の中に閉じこめてある。 撮影終了後、あまり元気の無かったハイドのことが気になり、 飲みの誘いを丁重に断り、ハイドの部屋へと向かった。 「ハイド、おじゃまするよ?」 ハイドには連絡を入れていなかったが、 幸い僕たちは、お互いに合い鍵を持っていた。 その鍵で部屋のロックを開ける。 「ん・・・誰?がっちゃん?」 部屋の奥から聞こえてくる声は、心なしか弱々しい。 「うん、僕だよ」 そう返事をして、ハイドの居る部屋へと向かった。 部屋に入ると、珍しく薄暗い電気がついているだけ。 ハイドはソファに横になっていたらしく、身体を半分起こしてこちらを見た。 普段から明るい光とは無縁な生活をしている僕には、然したる不便が有るわけでもないので そのままハイドのほうへと歩み寄る。 「ごめん、寝てた?起こしちゃったかな・・・」 申し訳なさそうに言った僕の言葉に 「や・・そんなことないで、」 そう言ってハイドはソファに座り直した。 ふと見た彼の顔が少し紅い。 薄暗い電気で分かりづらかったけれど 目も少し虚ろな感じで、どこか苦しそう。 もしかして・・・ 「・・・んー・・なんか飲む?」 そう言って立ち上がった彼の手を掴んだ。 「へ?」 ぐぃと引き戻され、ハイドの身体が少し揺らいだ。 そして、ハイドの手を掴んでみて予感は確信に変わった。 凄く熱い。 「がっちゃーん?」 手を掴んだままの僕を不思議そうにのぞき込んだ。 あー・・・そんな虚ろな目しちゃって・・・ 「ハイド、熱あるでしょ?」 「えっ・・・」 一瞬驚いた顔をしたハイドだったけれど、もう一度聞くと、こくりと頷いた。 「やっぱり・・・今日帰りに元気なさそうだったから・・・心配できてみたんだ」 「でも、そんなにひどくないし平気平気〜」 そういって、笑う彼。 でも頬はやっぱり火照ったままで。 「ハイド、薬は?」 「あー・・・ちょっと切らしてる」 「ぢゃぁ、僕買ってくるから」 ハイドの返事を待たずに、立ち上がった僕に、 「え?・・ええよ!寝れば治るやろし!」 少し身を乗り出し、僕の腕を掴んで止めた。 すぐ人に気を遣うハイドのことだから、僕に悪いとでも思ってるんだろう。 別に迷惑だなんてこと無いのに。 むしろ、こんな状態のハイドを放っておくほうが、心配で心配で・・・ 「ダメ。買ってくるからちゃんと横になってるんだよ?」 有無を言わさぬ雰囲気で少し強めに注意を促し、掴んでいる腕をほどいた。 * あいにく一番近い薬局がもう閉まっていて、少し時間がかかってしまった。 ハイドは人に気をつかってすぐに無理をするから・・・ もう少し、自分のことを大事にすればいいのに。 そんな心配をしながら、帰り路を急いだ。 「ごめん、近くの店閉まってて・・・」 そしてソファに寝そべるハイドへと目を向け、声を止めた。 一つ遠くの店へ行ってはいたけれど、さほど時間がかかった訳ではない。 けれど、そこへ横たわる彼の額には冷や汗がぽつぽつと浮かび、息も荒い。 眠っているのだろうけれど、表情もしんどそうだ。 僕が出ていった時よりも症状は明らかに悪化している。 眠りを妨げるのも悪いと思ったが、この状態では薬を飲ませないといけない。 俺はそっと彼をゆすり声をかけた。 「ハイド、薬買ってきたよ。」 僕の声に、ハイドのまぶたがゆっくり動いた。 うっすらと目を開けるハイド。 「・・ん・・・・がっちゃ・・・」 荒い息を繰り返す彼はとても辛そう。 『大丈夫?』なんて、無責任な言葉が出そうになって、喉元でとどめた。 そんなこと聞いた所で、ハイドは「大丈夫」と応えるだろうから。 けれど『大丈夫』では無いことぐらい見れば分かる。 「はい、薬。飲める?」 そう言って、用意しておいた水を彼に持たせてやる。 ハイドはそれを受け取り、こくりと飲み込んだ。 それを見て僕は少しほっとした。 これで、あとはゆっくり休んでくれれば・・・ そして、彼を寝室まで運び、ベッドへと横たえた。 「・・がっちゃ・・ん・・・、ごめんね・・・?」 荒い息を繰返しながらも、そういって虚ろな瞳でこちらを見た。 熱の所為か、瞳は潤んでいて。 思わず僕は息を飲んだ。 ハイドが苦しい思いをしている時に不謹慎かもしれないけれど・・・ 密かに思いを寄せる僕にとってはあまりにも艶やかで・・・ 「・・・がっちゃん・・・?」 返事を返さない僕に、更にしんどそうな顔でハイドが声をかけた。 「平気だよ、気にしないで」 そしてにこりと笑った。 その笑顔の裏で、自分を苛む。 何をやっているんだ。 こんな時に不安にさせるなんて・・・ 「気にしないでいいから、ゆっくりやすむんだよ。」 暖かく目線を向けて、頭をそっと撫でてあげると、 微かな返事と微笑みを返し、そっと目を閉じた。 そのまま、安らかな寝息をたてるのを確認して、 僕はハイドの部屋を後にした。 * 翌朝、僕はまたハイドの部屋を訪れた。 「ハイド、調子はどう?」 そう聞いてはみたものの、 昨晩よりも荒い呼吸、更に虚ろな目、 昨日よりも悪化しているのは、見るだけで分かった。 「夜、薬ちゃんと飲んだよね?」 そう問いかける俺に、こくんとうなずいたハイド。 確かに。 僕が居る前でハイドは薬を飲んだ。 「朝は?」 その問いにはハイドは首を振らなかった。 「じゃぁ、飲まなきゃ」 僕は水を持ってきて薬の箱を開けた。 「はい」 そして、水を差し出すものの、ハイドは受け取らない。 少し怪訝そうな顔をした僕の表情をみて 「や、今はええわ・・・」 そう呟いたハイド その意味のわからない僕はハイドに詰め寄った。 「や、じゃなくて、飲まなきゃ治らないでしょ?」 まるで小児科医のように説明する僕に 「アカンねん・・・俺、午後から・・撮影やし・・。」 苦しそうな呼吸で、言葉を紡ぐハイド。 「は?」 訳が分からず、僕はまた疑問系で返した。 いや、訳が分からずというよりも、彼の言っていることに驚いてというべきか・・・ 「ただでさえこんな状態やのに、薬飲んだらもっとぼーとしてまう・・・」 だから今はいい。 そういって、彼は首を横に振った。 確かにこの薬は副作用として眠気を伴う。 薬を服用した状態で撮影を行うのは困難だろう。 ・・・というか、ハイドはこんな状態で撮影に行こうとしているの? 「何いってんの?そんな状態で撮影なんてできないでしょ」 「でも・・・最近雨続きで、やっと撮れるシーンやから」 そういって、ベッドから起きようとするハイド それを僕が止めた。 「ちょっ・・・ハイドっ!自分が今どんな状態か分かってるの!?」 少し声を荒げて言った僕のほうを見つめ返したハイド。 熱の所為で朦朧とはしてたけど、明らかに僕のほうを見据えてた。 その瞳に、少し物怖じした。 先に、ふぃと目線をそらしたのはハイドだった。 「そんなの俺が一番分かってる。」 そう、吐き捨てるように言った。 「だったら・・・っ」 言いかけた僕の言葉を遮るように、ハイドは続けた。 「でも、映画撮影なんて始めてで、まったく分からない状態で迷惑かけっぱなしなのに、 もうこれ以上迷惑かけられへん」 苦しい呼吸の中、一気に言葉を発した所為か 空気を求める呼吸は更に荒くなった。 「ハイド・・・」 呼びかけた、僕の声に 「がっちゃんにも迷惑ばっかで・・・」 「ハイド・・・僕も、映画スタッフも、誰も迷惑だなんて思ってないよ!」 人一倍、人に気遣って 初めての経験ばかりなのに、毎日、毎日頑張っている そんなハイドを誰が迷惑がるの? 僕は訴えるような目でハイドを見た。 「・・・ありがと・・・」 一瞬びっくりした顔をしたハイドだったが、 笑顔でそう応えた。 「でも、やっぱり今日は休む訳には・・・」 ハイドが言い終わらないうちに 僕は薬を口に含み、持っていたコップの水をその口の中に流し込んだ。 そして、ハイドの顔を引き寄せてそのまま唇をあわせた。 「んっ・・・・」 いきなりのことで、ハイドも僕の服を掴み抵抗を見せたが、こんな状態の為まったく力が弱い。 飲むまいと抵抗を示していた口元も、息苦しさで観念したようだ。 ごくりとハイドの喉が鳴るのを確認して僕は唇を放した。 「・・・・・・・」 しばしの無言が流れる。 聞こえるのは、呼吸を求める苦しそうな息づかい。 「・・・ハイドのこと心配なんだからっ・・・あんまり無茶しないでよ」 我に返れば、少し強引だったかと心中で赤面し、 顔を背けたまま、そう告げた。 熱の所為か、先ほどの所為か、顔を紅くそめたままのハイドは 虚ろな瞳のままこちらを見ていた。 「とにかく・・・・ーっっ!?」 俯いたままこの空気をどうにかしようと言葉を発しようとしたとき、 肩口に、体温と重みを感じて、目を見張った。 「・・・っハイド?」 先ほど自分のしたことは棚に上げて、思わず慌てた。 項垂れかかる、ハイドの少し軽い体重に動揺する僕の心中とは裏腹に 小さな寝息が聞こえて来た。 その寝息を耳にして、思わず拍子抜けしながらも安心した。 「ははは・・・」 先ほどまでの、自分の動揺ぶりに思わず笑いが零れた。 もしかしたら・・・と期待しても見たけれど まぁ、そう簡単にはいかないか・・・。 眠りへと落ちていった、愛しい人の寝顔を見つめながら 小さく笑みを浮かべた。 早く元気になって・・・また笑ってほしい。 切実にそう祈りながら。 * 翌日、撮影現場に向かった僕は、どうも落ち着かなかった。 昨日は勢いであんなことをしてしまったけれど、 今になってハイドにどんな顔をして逢えばいいのか・・・ そんなことばかり考えていた。 いつものように、冗談だよ。と軽く流せば良いだろうか いや、あれは薬を飲ます為にやったことで・・・弁解すると余計に怪しまれるかも・・・ でも、これでハイドのとる態度から、ハイドが僕をどう思っているか分かるかも知れない・・・ そう頭と心で葛藤していると、 「おはようございまーす。」 向こうから、悩みの張本人の声が響いた。 どうやら風邪は治ったらしく、いつも通りの声だ。 そこにほっと安心しながらも、向かってくる彼に僕の心は早鐘をうった。 「がっちゃん、おはよう」 僕を前に、ハイドはこれまでと変わらない風に挨拶をする。 「おはよう」 とりあえず、それだけ応える。 いつもより早い速度で、鼓動するそれを沈めるように 胸に手を当てながら、ハイドの言葉を待った。 「薬ー」 その言葉を聞いて、びくりと身体がこわばった。 「買いに行ってもらったり、ごめんね。」 「あ・・・ああ。」 続けられた言葉に、おもわず心中で溜息をつく。 「それとさ・・・」 また続けられる言葉に、緩んだ心中がまた緊張する。 ああ・・・なんでこんなに一挙一動にはらはらしなきゃならないんだ・・・ 「昨日は本当にありがとう。」 「え?」 もしかして、僕の気持ちを察してくれてる? まさかとは思ったけれど、分からないふりを装って聞き返した。 心の中では、早まる鼓動が僕を焦らせる。 そんな僕の心中を察するはずもなく、ハイドはゆっくりと話し出した。 「俺さ、みんなに迷惑かけてるんじゃないかって思って、 凄く焦ってた部分もあって・・・。」 ・・・え? 「だから、昨日がっちゃんがああ言ってくれて凄く嬉しかったで。 凄く安心できた。本当、ありがと。」 そういって、ハイドは笑った。 そのことだったの・・・? 張りつめていた緊張がほどけて、 思ってたこととは違う応えに呆けた顔で立ちつくす。 ハイドはその後は何も言う様子もなく、僕の先を歩いていく。 やっぱり・・・そう上手くはいかないか・・・ 必要に迫られた行為なだけであって、彼にとっては何でもないこと。 まぁ、気まずくならなかっただけでも、良かったのかもしれない。 少しがっかりしたような、また少し安心したような気持ちで、 前を歩く背中を見つめた。 まだ機会はいくらでもある。 今回は、またあの笑顔が見れたことで良しとしよう。 僕は先ほど向けられた笑顔を想いだして、小さく微笑んだ。 「ああ、そういえば・・」 前を歩いていたハイドが、不意に立ち止まった。 かと思うと、こちらに向かって小走りに走ってきて ちょいちょい、と僕の顔を引き寄せた。 何?と表情で示して、少し身をかがめると、 僕の耳元に囁いた。 「舌入れるんは反則やで。」 ・・・・っ!? 耳元に吹きかけられた言葉と吐息に、僕は耳を抑えたまま顔を染めた。 そんな俺を、悪戯そうな瞳で見たハイドは。 「有る意味、薬よりも効いたカモ〜」 そう言って不適な笑みを残し、また踵を返した。 「ハイドっ・・・それって・・・」 呼び止める声に、足は止めないまま。 「がっちゃんが風邪ひいたときには、俺がしたるな〜」 そんな意味深な言葉ばかりを残して、ハイドは歩いていった。 「たまには、風邪ひいてみるのもいいかな。」 背後に呼び止める声を聞きながら、 ”風邪よりも厄介なウィルスにかかったかな。” とハイドが一人ごちたのを、ガクトは知らない。 end. +-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+ COMMENT Identity の 文月綾 様に捧げた小説です。 HPを再開なさったので、HP再開記念として・・・ 強制的に送りつけさせていただきました。(^^; 文月さんのサイトへ遊びに行ったら、ガクハイがUPされておりまして、 「ぎゃーーーー!!ガクハイぃーーーっvV」 と悶えさせていただきまして・・・(何) その勢いで書いてしまいました。 以前テツハイで風邪ネタ書いたばっかなのですが・・・ またまた風邪ネタで・・・ カプが違うので・・・許して下さひ(T_T) そして、ガクさん。 こんな時にまで舌テク(え)を忘れずなんて・・・流石です!! (↑何) えっと・・・こちらこそ、本当に返却OKですので・・・ よかったらもらってやって下さい。 HP再開、本当におめでとうございます(^^) Heavenly Feathers 管理人:桜歌彩音 戻る。 |