「逢いたい。」
ソファーに仰向けて寝転がったまま、最近ずっと思っていたことを口にしてみた。
「がっちゃんに逢いたいーー!!・・・あたっ」
もう一度強く言ったら、まるめた雑誌で頭を叩かれた。
「何すんねん!」
紙といえど束。
恨めしそうに見上げれば、明らかに不機嫌顔で此方を見下ろすてっちゃんと目が合った。
「仕事中なんですけどー」
「知ってるー」
敢えて抑えた口調で言ってくるてっちゃんの言葉をさらりと交わして、ソファーの上に起きあがる。
未だ何か言いたそうなてっちゃんの視線には気付かないふりをして携帯を取り出した。
メールも着信も新着表示は無い。
憮然とした表情で携帯を閉じて、もう一度呟く。
「逢いたいなー」
「なに、なに〜、最近逢ってへんの?」
面白いものでも見つけたように話に食いついてきたkenちゃんに一瞥くれてから、
「俺はレコーディング続きやし、がっちゃんも忙しくて全然逢われへんねんもん」
一体どれぐらい逢っていないんだろう・・・
そう考えてみると、最後に逢ったのなんて大分前な気がする。
最近寂しいのは気のせいではないと確信して、よりやるせなさが増してきた。
「あり得へんやんなぁ・・・」
”逢いにきてくれても良くない?”と誰にともなく呟いて、一つ溜息をついた。
「あんまり我侭言ってると愛想尽かされるんやー。」
そんな俺を見ていたてっちゃんが、此処ぞとばかりに不適に笑う。
少なからず自覚がない訳ではない・・・
少々痛いところを突かれ反論できないのを良いことにkenちゃんまでもが口を挟んできた。
「仕事やなくて、今頃他の誰かと一緒やったりなー」
むか。
冗談にしては悪趣味な物言いに、流石の俺もすんなりと流せない。
未だ笑みを浮かべている輩どもをキッと睨んで言ってやった。
「がっちゃんは浮気せえへん!お前らと一緒にすんな!」
ベ、と舌を出して腰を上げる。
こんな輩と一緒に居れるか、と愚痴をこぼし、
気晴らしに外へでも行こうとドアを開けた途端、誰かとぶつかった。
勢い余ってよろけたところで腕を捕まれ、なんとか転倒は間逃れた。
「hyde?」
懐かしい声で呼ばれて目線をあげると、そこに立っていたのは・・・
「がっちゃん!」
紛れもなく先ほどから話題に上っていた当人だった。
突然の再会に名前を呼ぶ声が自然と弾む。
「スタジオ近くって聞いてたから、寄ってみたんだ」
にこりと微笑む仕草が懐かしすぎて、なんだか恥ずかしい。
けれど逢いたいと思った人が目の前にいる。
「逢いたかったー!」
俺たちのやりとりを見ている輩どもに、先ほどもらった不愉快の御礼も兼ねて見せつけてやろうと、
ハグされるよりも早く自分からがっちゃんに抱きついた。
だがそこで はた、と気付く。
知らない香りがする。
すん、と小さく香りを吸い込めば、微かにだけれどいつものがっちゃんとは違う香り。
先ほどまでの冗談で話した会話が頭を掠めた。
冗談だとさっきまで笑えていたのに、突然訪れた疑いに思わず戸惑ってしまう。
「hyde、どうしたの?」
「あー、ううん。久々だから嬉しくって」
不思議そうに顔をのぞき込んでくるがっちゃんに、動揺がばれないようにと笑顔を創る。
そんなこと無いよな・・・。
心の中で自問自答して、なんとか気持ちを落ち着ける。
けれどどうしてか不安になってしまって、折角逢えたのだから離れたく無かった。
「な、がっちゃんはもう仕事終わったん?」
「うん、今日は終わり。」
「じゃあ、これからがっちゃん家行ってもええ?」
突然そんな事を言い出した俺に、がっちゃんは驚きながら返事を返す。
「僕は全然かまわないけど、hyde仕事・・・」
「今終わったから平気〜」
疑問の意味を読みとって間髪入れず言葉を返した。
そうなの?と疑問顔ながらも頷くがっちゃんを確認して、俺はてっちゃんの方へと向き直った。
「てっちゃん、俺もう帰るから」
「は?・・・帰るってまだ・・・!」
無論、まだ仕事は終わった訳ではなく、
それでも堂々と帰る宣言をした俺にてっちゃんが抗議の声を漏らす。
けれどそんなてっちゃんの声など聞こえないふりで、がっちゃんの腕を引いた。
「帰ろう、がっちゃん」
*
がっちゃんの家へと着いた俺たち。
「本当に平気だったの?」
無理矢理な仕事の切り上げにがっちゃんは少し心配そうに聞いてきた。
がっちゃんは優しいから、いつもこうやって心配してくれる。
そういう所凄く好き。
「うん、調度区切り良かったし平気」
そう応えたら、がっちゃんは"あんまり迷惑かけたら駄目だよ"と少し困ったように笑ってから、
「でも、嬉しいな。最近、全然逢えなかったから」
そして優しく抱きしめてくれた。
次に口付けが降ってきて、久しぶりの甘い感覚が身体を駆けめぐる。
そんな甘い口付けに酔いしれていたいのに・・・
いつもと違う香りが気になって、甘い時の淵から引き戻されてしまう。
「・・・・・・っん、・・・」
久しぶりの口付けを堪能した唇は首筋を伝い愛撫は続く。
必死にその愛撫に酔いしれ忘れようとするけれど、
触れられれば触れられる程その香りの存在が気になって・・・。
堪らず愛撫を続けるがっちゃんの胸を押し返した。
「がっちゃん!」
「ん?」
「ご、ごめん・・・シャワー浴びてからにしよ?」
「・・・どうしたの?」
「ええから、シャワー浴びてきて」
気に掛けるがっちゃんから目線をはずして、ただ頑なにそう主張する。
"シャワー浴びてきて"の一点張りな俺に首をかしげつつもがっちゃんは提案した。
「じゃあ、一緒に入ろうよ」
「お、俺はええからっ///」
そんな提案を丁重にお断りして。
つまらなそうにぼやくがっちゃんの背中を押してバスルームへと無理矢理押し込めた。
少し強引すぎた気もして罪悪感を感じてしまうけれど・・・、でも・・・。
「そんな香りで抱かれたくないよ・・・」
水音を立てはじめたバスルームを見やって小さく呟いた。
がっちゃんは凄く優しい。
自分を大事にしてくれているのも知ってるし、
がっちゃんがそんなそんな人じゃないってことだって分かってる。
浮気なんてあり得ない、そう頭では分かってるはずなのに。
いつもと違う香りが鼻をかすめる度に気持ちのほうがどうにも弱気になってしまう。
最近全然逢えへんかったし、がっちゃんめちゃくちゃ男前やし・・・。
浮かんでくるのは不安な要素ばかりで、後ろ向きな考えしかできない自分が情けない。
そんな風に鬱々と考え込んでいると、背後にほわりと暖かい空気を感じた。
振り向けば包み込むように抱きしめられて、
「あ、おかえり」
「ただいま」
抱きしめられた腕の中。
香ってくるのはいつものがっちゃんの香りとソープの香り。
その香りを吸い込んで、思わず安心する。
けれどこれで全てが解決した訳では無く、未だ残る小さな棘。
抱かれながら黙ってしまった俺に気付いて、
がっちゃんは抱きしめる腕をゆるめて顔をのぞき込んだ。
「どうしたの?」
「え?・・・あ、何でもない」
「今日、ちょっとおかしいよ、どうしたの?」
"言ってごらん"と髪を梳きながら優しく促されて、戸惑いながらも小さく話し出す。
貴方はこんなにも優しいのに・・・。
自白というよりも、これはがっちゃんへの懺悔。
「がっちゃんから、知らない香りがしたから・・・」
「え?」
「違う、さっき逢った時」
首を振ってそう言い足した俺の言葉を聞いて、がっちゃんは思い出したように話し出した。
「今日、仕事一緒にした人がきつい香水をつけてて、それが移っちゃったのかな。」
「ほんま?」
優しく頷いてくれるがっちゃんに小さく返事を返す。
「そっか」
けれどいまいち晴れない俺の表情に、反対にがっちゃんが不安そうに聞き返してきた。
「嘘だと想ってる?まだ不安なの・・・?」
「ううん、そうじゃない。ちゃんと信じてるよ。」
「じゃあ、そんな顔しないでよ。」
気持ちを癒やすかのように優しく包み込んでくれるがっちゃんの腕。
やっぱり、凄く暖かい。
そんな暖かさに抱かれながら俺は思っていることを話しだした。
「聞かなくても分かってたんや、がっちゃんがそんなことする訳無いって。
でも分かってるはずなのに・・・どうしても気になっちゃって・・・」
まるで懺悔するように話し出した俺の言葉をただ静かに聞き入れるがっちゃん。
「ごめんな、疑ったりして・・・良い気分せんよね。」
ごめん、と謝る俺の唇をがっちゃんはそっと塞いだ。
宥めるような口付けをして離れた唇。
「そんなに謝らないで」
「でも・・・」
「そうやって不安になったり悲しんだり・・・それはhydeが僕を大切に思ってくれてるからでしょう?」
そう聞いてくるがっちゃんの表情は優しさが溢れていて、心までもが洗われる気がした。
大切に想っているに決まっている。
何よりも、誰よりも大切に想っている。
俺が頷くのを確認してがっちゃんは続けた。
「なら、僕は嬉しいよ。そんなにもhydeに想われて。」
だからそんな顔しないで、とまた浅く口付けをくれる。
口づけられた唇から熱が伝わって頬が熱くなる。
そんな俺を愛おしそうに見つめてから。
「僕は浮気なんてしないよ。hyde意外なんてまったく興味無いから。」
「がっちゃん・・・」
「だから〜、そんな泣きそうな顔しないの。」
がっちゃんの言葉が、気持ちが、凄く嬉しくて、ますます泣きそうになりながらがっちゃんを見たら、がっちゃんは少し困ったように笑いながら優しく髪を撫でてくれた。
「ていうか、むしろ僕のほうが心配なんだけど・・・」
「え?」
「hydeって、無意識に誘ってるんだもん。」
「・・・そ、そんなんしてへんっ!」
「だから無意識なんだってば」
苦笑いをしながら俺を宥めるがっちゃん。
でも俺は本当にそんなことしてる気は無いし・・・がっちゃんだけだから。
「まあ、でも可哀想なのはその相手のほうか」
「え?」
「だってhydeは僕にご執心な訳でしょ?」
本人から言われるとなんだか釈然としない。
「そ、そうや、俺はがっちゃんだけや。分かってるなら大事にしいや。」
恥ずかしがるのも癪だから、ちょっと強気に言ってやった。
そうしたらがっちゃんは声をたてて笑い出した。
「っ、なんで笑うんねん!」
「いや、やっと普段のhydeらしくなったなぁって想って。」
そう言いながらまだ笑ってる。
結局こちらの想っていることなんてお見通しのようでちょっと悔しかったけれど、
笑ってるがっちゃんを見ていたら自然と嬉しくなって、自分もいつの間にか笑ってた。
目が合って二人で微笑みあった後、
「では、もう大切な姫君を頂いても良いかな。」
がっちゃんはわざとそんな改まった言い方をして、俺の髪を手にとり口付ける。
「想わぬところでお預けされてもうぺこぺこです。」
ちょっと情けない表情で言ったがっちゃんに、ははっと笑いながら答える。
「どーぞ、召し上がれ」
今宵の甘夜は不安への懺悔ではなく、これからも続く未来へ捧げる為に。
どこまでも甘い夜を・・・。
end.
◆COMMENT◆
えーと・・・ガクハイです。
ガクハイ更新するのものすごく久しぶりな感じがしますね。
hyバ小説以来ですか?
何だかいまいち薄い作品になってしまってますが・・・(汗
うう、納得行かない。(T-T)こんなんじゃ無いんだよ、ガクハイは!(え
ガクハイとかもう公認カプ(えっ)だし、素敵な小説書いてるサイトさん沢山あるから、
わざわざ自分で書かなくても良いんじゃない?って想ったり。
なんか勢いが無いですね・・・自分。
ガクハイ未だに大好きなんですけどね。萌えまくりですよ。(笑
次はもうちょっと頑張りますので、また懲りずに読んでやってください。(^^
「こんな話読みたいよー」て声も募集中。万年募集中です。(笑
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