feel at ease






撮影の合間、一向に文字が書かれることのないまっさらな紙を見つめ
僕は大きなため息をこぼした。
映画撮影を薦めつつ、音楽活動をするという、無謀ともとれるような毎日。
自分の世界を広げたいという想いから始めたことに、後悔など微塵も無い。
だが、時間というどうにもできない存在と、それに比例して動いてくれないスケジュールに苛々が募る。
淀む想いとは裏腹に、真っ白にたたずむその紙を、くしゃっと握りゴミ箱へと投げつけた。
「はぁ・・・・・」
「がっちゃん?」
呼びかけられ目線を上げると、不思議そうにのぞき込むハイド。
「今日の撮影後の飲み会どうする?」
「んー・・・今日は遠慮する。ハイドだけ行ってきたら?」
かろうじて造った笑顔。
もしかしたら、ものすごく滑稽な表情をしていたのかもしれない。
「がっちゃん行かないんかぁ・・・分かった、じゃぁ伝えてくるね。」
そういって、走り去っていく彼の背中を眺めて、また一つため息がこぼれた。


翌日、煮詰まったままの状態で、撮影へと向かった。
先に撮影入りしたハイドは、スタッフの人と何やら楽しそうに話している。
撮影入りする僕を見つけると、その笑顔のままこちらへと走り寄ってくる。
裾をひっぱり、端のほうへと移動すると
「がっちゃん、あんなぁ今日2人でどこか飲みいかへん?」
最近忙しかったからたまにはゆっくりどぉ?と気遣うように話しかけてくれるハイド。
彼の好意に甘えようと、にこりと笑顔を作ってOKの返事を返した。

撮影後、ハイドの撮影が終わるのを待ちつつ、僕はまた白紙と格闘していた。
日本でのスケジュールも考えつつ、こちらでの撮影も考慮。
そんなハードなスケジュールの中で気分が滅入ってしまい、どうしても伝えたい想いが言葉にできない。
思い通りにならない想いに、焦ってみても苛々は募るばかりで・・・。
その厄介な思いを少しでも散らそうと、頭をかかえこみ目を閉じた。

「がっちゃん?」
「あ・・・え?」
不意に呼ばれた名前にふと顔をあげると、心配そうにのぞき込むハイドの顔。
「どこか調子悪いん?」
そう聞くハイドに、また笑顔を作って答えを返す。
「ん、大丈夫。」
その瞬間、彼の顔が曇った。
え?
「ハイド・・・?」
聞き返した僕の言葉を遮るように
「今日の飲みは辞めにしよかっ」
そう言う彼の表情は、元の笑顔に戻っていた。
「えっ、でも・・」
言葉を濁す僕の発言をまたも遮るように、ハイドは続けた。
「気にせんでええよ〜、がっちゃんも色々せなアカンこと多くて大変なんやろ?」
でも、ちゃんと休養もとらなアカンで、
そう言って背を向け去っていった。
「ハイド!」
とっさに去っていくハイドの腕をつかんだ。
先ほど映った彼の表情が気になって・・・
ぐぃと、引き戻されその瞳がこちらを向いた。
「がっちゃん?」
首をかしげるハイドの表情はいつもの表情に戻っていて。
どうしたの?と視線を投げかけてくる。
「あー・・・、僕の部屋で飲まない?」
あくまで僕のことを心配してくれているハイドは、始め断っていたが、
大丈夫だからというと、それじゃぁ、と承諾してくれた。


「おじゃましまーす。」
「どうぞ、ソファにでも座ってて」
と、僕グラスを取りにいく。
グラスを持ち、戻ってきた僕に
「がっちゃん、せなアカンことあるんやろ?別にやっててもええで?」
俺、静かにしてるし・・・と気遣ってくれるハイド
「うん、でももうすぐ片づくし、大丈夫だよ・・・・っ」
返した返事とは反対に、全く進んでいない真っ白な用紙を思い出し、急に頭に鈍い痛みが襲った。
「ー・・・・っ〜・・・・」
「がっちゃんっ、大丈夫っ!?」
急に頭をかかえたガクトに、ハイドは不安そうに声をかけた。
ダメだ・・・ハイドの前でこんなこと考えてちゃ・・・・
自分に言い聞かせ、頭の痛みを落ち着かせる。
「はは・・・平気だよ。ごめんごめん・・・」
安心させようと、精一杯の笑顔を作って答えた。

・・・つもりだったのに・・・

ハイドの表情は晴れない。
それどころか、だんだん俯いていく。

「俺さぁ・・がっちゃんに負担かけてる・・・?」
半分俯いたままの顔から除く口元はかろうじて笑っていたが、声が震えているのが分かった。
「え・・・?」
思ってもみない事を言われ、聞き返した。
そんな俺に、更に言葉をつづけるハイドは
「がっちゃん、俺の前で無理してるやろ?」
確信に迫ったことを聞かれ、思わずたじろぐ。
無理をしてないといったら確かに嘘になる。
けれどそれは・・・・・
「そんなことないって」
たじろぎつつも、笑顔をつくり直し返答を返す。
「嘘っ!がっちゃん明らかに疲れてるのに、いつも無理矢理笑顔作るやんかぁっ!!」
今まで俯いていた顔を突如に上げ、僕のほうへ攻め入るハイド。
彼の瞳はいつもながらの有無を言わさぬ力強さの反面、とても苦しそうに見えた。
その勢いに押され、硬直したままの僕。
「撮影中も、撮影後もっ・・・最近のがっちゃんは、俺の前で無理して笑ってる!今だってそうやっ!」
胸元を捕まれ、呆気にとられたまま動けない
それまで力強い目線で見据えていた彼の瞳が揺らいだ。
「・・・・がっちゃん・・・なんで、無理すんの?」
「え?」
「なんで、無理に笑顔造るのっ!?俺たちの関係は、いつも笑顔見せてなきゃあかんマスコミとかそういう関係ちゃうやろっ!?」
その瞳からは、今にも涙がこぼれそう。

なんで無理するの・・・なんで甘えてくれへんの?

「俺じゃ・・・頼りない・・・?俺じゃ、がっちゃん救えへんの・・・・・っ?」
最後の言葉は、涙混じりで聞こえづらくなってしまっていた。
「ああ、もうっ何で泣いとんのやろっ!!こんなんじゃあかんのにぃっ・・・」
気付けばハラハラとこぼれ落ちていた涙を止めようと格闘するハイド。
そんなハイドを見て、僕の心の中で何かが動いた。

彼を不安にさせたくない、心配させたくない・・・
そう思って振る舞っていた行為が、彼自身を深く追いつめていたなんて・・・

目の前で自分の為に泣いてくれているハイドを見て、胸がきしんだ。
苦しくて、切なくて・・・・思わず抱き寄せた。
「・・・・っがっちゃん?」
「ごめん・・・、そうじゃ・・ないんだ・・・・」

ハイドが頼りないとか・・・そういうことではなくて・・・

彼をぎゅぅと抱きしめて、肩口に顔を埋めたままぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。
その背中に腕を回したまま、ハイドは静かに言葉を待った。
「僕、ハイドにだけは・・かっこ悪い姿っ見せたくなくて・・・っー・・・・」
一つ一つ言葉を紡げば、今まで心の中で詰まっていたものが急に溶け出して。
感情が一気にあふれてきた。
苦しさ、切なさ・・・・・・だけど、どこか安心している自分も居て・・・
きゅぅと抱きしめる力が更に強まった。
それに答えるように、ハイドは頭をそっと撫でて優しく言った。
「俺はがっちゃんの内面知って好きになったんよ?
がっちゃんの弱いとこも、全部知って好きになりたい・・・
だから・・・もっと甘えてよ。」

俺に・・・

そう言ったハイドの声は、本当に優しくて、暖かくて。
心の中にどくんどくんと音をたてて広がっていった。
触れた手も、とても温かくて
押し寄せる感情を止める術が見つからなくて・・・

「っごめ・・・・じゃぁ、少し・・・このままで・・・・・」

僕は彼を抱きしめる腕に、更に力を込めた。




もう少し、もう少しだけ、このまま抱いていさせて

暖かくて・・・心地よくて

ふれあった所から、凍っていた心がどんどん溶けていくから。





そうしたら、今度は心からの笑顔で、君と笑えるから





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COMMENT



えぇーっと・・・
たまにはちょっと、かわいらしげ(?)なガクさんを書いてみようかと・・・
かわいらしげ・・・っていうか・・・(←何)
ガクさんを宥めるハイさん、ハイさんに宥められるガクさんっていうのを書いてみたかったのです。
こんな2人もどうでしょ??
この後の2人も書いてみたいです。
正気(?)に戻ったガクさんがどんな態度をとるのか・・・(笑)
機会があったら載せたいと思います。


実はこれ、結構前から考えたストーリーだったのですが、
途中まで書いたまま止まっていて・・・今回ちゃんと書き上げてみました。

ストーリーがあっても、途中で止まってる作品、ガクハイ、テツハイ、ヤスハイ・・・
色々あります・・・(- -;
いずれ、ちゃんと形にしてあげなければなぁ・・・
がんばりまっする!












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