◆「Identity」 文月 綾 様より頂きました◆
Cherry blossom viewing
「あー……温泉行きたいなぁ」
そう、ハイドがぽつりと零したのが事の発端だった。
「何、ハイド温泉行きたいの?」
近くで雑誌を読んでいたアダムがハイドの呟きを拾って聞き返す。
ハイドはくるりとアダムの方を向き、つつつっと近寄った。
「だって今の時期なら桜も咲いてるやろうし、花見風呂なんてええと思わない?」
「花見風呂、ねぇ……」
ハイドの言葉に其の情景を何となく想像してみる。
はらはらと散る桜がハイドの上に降る。
しっとりと濡れ、僅かばかりに上気した肌。
露な首筋や鎖骨。
髪をアップにすれば、項も見える。
そんなしどけない光景を想像して、アダムはにやりとした笑みを浮かべた。
「ねぇ、行ってみない?」
「うーん、そうだなぁ……まぁ、偶には悪くないんじゃない?」
「やったぁ!じゃあケイにも訊いてこなくちゃ」
「え、ケイ?あいつも行くの?」
意外だと言わんばかりのアダムの口調にハイドはきょとんとした。
「当たり前やろ。ケイだけ一人お留守番なんて可哀相やん」
「だってあいつ、日光嫌いだぜ?昼間からの旅行なんて行かないだろ」
「やっぱりダメ、かなぁ?」
「無理無理。だからハイド、俺と二人で行こう?」
「うーん……じゃあ、そうす」
「俺も行く」
アダムの意見に同意しかけたハイドの言葉を部屋から出てきたケイが遮った。
「何、お前も来んの?」
「ああ。良いんじゃねぇ、偶には温泉てのも」
「ていうか、お前は何で話の内容を理解してんだよ」
「部屋まで聞こえた」
「……此の地獄耳……」
「あ?」
「なぁなぁ、ケイも行くんやろ?でも昼間から行くけど平気なん?」
ハイドの問いにケイはさらりと言ってのける。
「ああ、ハイドと行くなら大丈夫、我慢できるよ」
「ホンマに?じゃあ、今から旅館に問い合わせるなっ」
かなりの上機嫌で鼻歌を歌いながらパタパタと部屋へ戻っていったハイド。
其の後姿を見送った後、残された二人は。
「無理しない方が良いんじゃない?日の光を浴びるのも、湯船に長く浸かるのも苦手だろ」
「お前とハイドを二人っきりで旅行になんて行かせられるかよ」
「うわー、俺って信用無いの?」
「ハイドに関しては、な」
「アダム哀しいっ」
「鳥肌たつからやめてくれ」
しなをつくったアダムを本気で嫌がるケイ。
其れに対し、アダムは「ちょっと真面目な話」と態勢を直す。
「今から旅館の予約とれると思うか?」
「此の時期、ハイドと同じようなこと考えるやつは幾らでも居るだろうな」
「其れこそ前もって予約しといて?」
「まぁ、そうだろうな」
「俺、前から思ってたんだけど……ハイドって、天ね」
「言うな。其処が可愛いんだから」
「其れは同感」
ハイドに対して意見が一致したところで、其の本人が部屋から出てきた。
其の第一声は。
「旅館の予約とれたーvv」
「「え!?」」
思わずハモる三つ子の上と下。
真ん中であるハイドはニコニコと笑いながら続けた。
「丁度、三人で入ってた予約がキャンセルされたんやって。ラッキーやね」
「あ、ああ。良かったな」
「あー、もうすっごい楽しみ〜♪」
「準備せんとなぁ」などと言いながら、ハイドは自室に戻っていった。
其れを見送る兄と弟。
「そういや、ハイドって昔から運良かったっけ……」
「だからって、こんな……まぁ、良いか」
ケイの納得した言葉に、アダムももう何かを言うのはやめた。
こうして、三人の温泉旅行が決まった。
×××××
出発当日。
春の日らしい綺麗に晴れた空と暖かい空気。
深呼吸するだけで気分が良くなれるような日の朝。
どうやら相当、楽しみらしくハイドは鼻歌など歌いながら荷物を車に積んでいた。
其処へやってきたのは弟であるアダム。
アダムも自分の荷物を持っていて、其れをハイド同様、車に積んだ。
「アダム、ケイは?」
「ケイ?朝飯食った後から見てないな」
「えー?何処行ったんやろ?」
ハイドがケイを探しに家に戻ると、アダムは一言こう漏らした。
「ケイのやつ、大丈夫かな?此の快晴で……」
一方、ハイドはケイの部屋の前に来ていた。
コンコン、とドアをノックして中に入る。
すると、カーテンの引かれた薄暗い部屋でケイはベッドの端に座っていた。
「ケイ……?どうしたん、大丈夫?」
「あぁ、ちょっと寝不足で貧血が……」
「え、そうなん?やっぱ行くの無理、かな」
自分を心配する顔色に更に落胆の色が浮かぶのを見て、ケイは少し慌てた。
「いや、大丈夫だから」
「でも、無理して倒れたりしたら――」
言い切る前にケイはハイドの唇を塞いだ。
触れるだけのキスの後、ハイドの唇を舐めてから離れる。
「ケイ!?」
「今のでハイドから元気貰ったから大丈夫」
ケイは立ち上がると、少し厚いコートを羽織ってフードを被った。
そして荷物を持ち、「さぁ、行こう」と言って戸惑うハイドの肩を抱いて部屋を出た。
外に出ると、既に運転席に着いたアダムが待っていた。
ケイが後部座席に入るなりアダムが問いかける。
「ケイ、お前、大丈夫なわけ?」
「あぁ。ハイドとの旅行をふいにするわけないだろ?」
「あっそう」
アダムが素っ気無く頷くと、助手席にハイドが乗り込んだ。
「あれ、ハイド、何か顔赤くない?」
其の問いにハイドは肩を揺らした。
「そんな事無いって!ほ、ほら早行こ!」
「ふーん……」
そんなハイドを訝しみながらミラーで後部座席を見ると、優越感に浸ったケイの顔が見えた。
(ケイのやつ、何かしたな……)
そう心中で結論付けると、アダムは車を発進させた。
車を走らせること、数時間。
目的地である旅館に到着した。
「いらっしゃいませ。遠い所お疲れ様でした」
入るなり、若女将らしい綺麗な女性が従業員と一緒に出迎えてくれた。
「お荷物をお運びします」
そう言って従業員が三人の荷物を受け取る。
「其れでは、御部屋の方へご案内させて頂きます」
若女将が先導するのに任せて、三人は部屋へと向かった。
「此方です」
案内されて入った部屋は結構な広さだった。
広い和室が二間続きになっていて、其々の部屋からは外の景色が見渡せるようになっていた。
「うわー、広―い」
「良い部屋じゃん」
其々、感想を洩らすハイドとアダム。
そんな二人を見ていたケイに若女将は声をかけた。
「夕食は七時、お部屋にお運びしますので……」
「あ、はい」
「其れでは失礼致します」
三つ指ついて礼をすると、若女将は出て行った。
其れを見届けて、ケイは二人を振り返る。
「おい。夕食七時から、って――」
ケイの言葉が途切れたのは、アダムの行動を目にした所為だ。
見ると、ハイドが畳に腰を落ち着け、其の上に覆いかぶさるようにアダムが居た。
しかも、其の手はハイドの服を脱がしにかかっている。
「何してんだ、おい」
「あっ、ケイ!」
丸で助かったと言わんばかりの表情のハイドの上から、ケイはアダムを引き剥がした。
一方、アダムは不満たらたらである。
「何だよ、只、一緒に此の露天風呂に入ろうと思っただけだろ」
「は?」
「ほら、見ろよ」
そう言うアダムの指差す先を見ると、ガラス戸の向こうに確かに露天風呂があった。
当然、普通のものより小さいが、部屋に備えてあるものにしては十分な大きさだ。
横からは覗けないようになっていて、正面には何処までも広がる風流な自然の風景が見渡せた。
確かに良い露天風呂ではあるが、先程のアダムの発言は却下しなければならない。
「お前は大浴場へ行け」
「えー、俺、他人に肌晒したくない」
「お前……」
アダムの科白に呆れてケイはものも言えなかった。
「じゃあ、アダムは此処のお風呂に入ればええやん。俺とケイは大浴場行こ」
「「えっ?」」
ハイドの言葉に、流石兄弟、声がハモる。
しかし、ハイドは何も分からずに「ん?」と首を傾げている。
「だってアダムは他人と入るのイヤなんやろ?俺は平気だし」
此の言葉に、アダムは勿論、けれどケイも慌てた。
((ハイドの裸を他人になんて見せてたまるか!))
流石、ハイドを愛する二人。
考える内容が見事一致している。
「ハイド、お前も此処で入りな」
「え、何で?」
「ケイの言う通り。だから俺と一緒に」
「一人ずつ入れ」
「何だよ、邪魔すんなって」
「妥協してやったんだ。文句言うな」
「じゃあ、まずアダム入れば?俺は其の後でええから」
「え?」
「よし、決定。良かったな、人様に肌晒さなくて済んで」
「〜〜!」
ケイの嫌味に、アダムはハイドと風呂に入れないのも重なってイラついた。
何だか、今日はケイの方が優位に立っているようだ。
「ゆっくり入ってきてええから」
其の一言に押されてアダムは露天風呂へと向かった。
残された二人はというと。
「アダムが出てくるまで、お茶でも飲む?」
「ああ、そうするか」
ハイドの意見にケイが同意して、二人はテーブルに着いた。
そしてハイドが、かいがいしくお茶を淹れる。
其のお茶を飲んで一言。
「良い景色だな」
「うん、桜が綺麗やね」
ハイドの言う通り、短い時期の今を盛りに、外は桜が満開だった。
「明日、桜でも見に行く?」
「え?でも、ケイ、明るいところは……」
「じゃあ、夕飯の後、夜桜でも」
「ええの?うわぁ、嬉しい……」
自分の言葉に破顔したハイドを見て、ケイも嬉しく感じていた。
実を言えば、今までずっと傍に居たハイドをケイは大事に思っていた。
勿論、口には出さないがアダムも大切な兄弟だと思ってる。
けれど、思いの方向性に微妙なずれがあるのだ。
其れは本当に分かりづらいのだが、家族愛と恋愛の微妙な違いだった。
そして、アダムが自分と同じ思いでいることも気付いていた。
アダムもハイドの事を家族愛以上の想いで見詰めている。
自分の心の整理が付いてしまえば、其れに気付くのは容易だった。
何故なら、自分と同じ状況にあるのが見て取れたからだ。
自分がハイドを見詰めていれば、同じくアダムも見詰める先はハイド。
そして戯れのようなキスと冗談のような告白をするのも同じ。
其処は流石、兄弟と言えよう。
只、想われている方のハイドの真意は全く見えてこなかった。
三人で暮らす中で、愛の言葉を囁けば軽い調子で「俺もやで」とか「ありがと」なんて返すだけ。
キスをすると、未だに戸惑うところは意識されてると思いたいのだが。
「なぁ、此れってどう結ぶわけ?」
考えに耽っていたら、突如聞こえてきた声。
其の声のほうを見ると、アダムが湯上りの様子で立っていた。
浴衣の着方がいまいち分からなかったらしい。
「浴衣の着方、前に教えたのに……」
そう言って駆け寄るハイド。
アダムの前に立つと、浴衣の合わせ方を直し帯を結んだ。
「これくらい覚えとかなあかんよ?」
「悪い。サンキュー、ハイド」
礼を言うだけで良いのに、アダムはハイドの頬にキスを落とした。
其れをハイドははにかんで受け取る。
「じゃあ、次、俺が入ってくる」
そう言い置いて、ハイドは浴衣などを手に露天風呂へと続く部屋へと入り襖を閉めた。
「お前も茶飲む……」
「……」
言いかけて、何故か閉められた襖をじっと見詰めているアダムに気付く。
「どうかしたのか?」
「いや。只……」
「只?」
「ハイド、今更照れてんのかなって思って」
アダムの科白にケイは疑問符を浮かべた。
「は?」
「いや、だから風呂入るとこ見られたくないから襖閉めたんだろ?」
「あ?……あ、あぁ」
何が言いたいかいまいち分からないが、取り敢えず相槌を打つ。
「そんなの今更照れるもんでもないだろうに、可愛いなぁと思って」
「……そうか」
もう何と言って良いか分からなくて、ケイは短く頷いた。
すると、そんなケイの反応など気にも留めず、アダムは襖に手を掛けた。
「お前、何してんの?」
今、自分で言ったばかりなのだ、「ハイドは見られたくなくて襖を閉めた」と。
其れを言った本人が何故、其の事実を裏切るようなことをするのか。
「ハイドの裸、見たくないの?」
ブーッ!!
突如掛けられた言葉に、ケイは口に含んだお茶を噴き出した。
「うわ、汚ねぇ」
「誰の所為だ!」
「何、動揺してんだよ。で、見んの?」
「見るわけないだろ……」
ケイは自分が吹きこぼしたお茶を拭きながら、否定する。
「でも、こんな明るいうちから見られる機会なんて、そうそう無いだろ」
「万年発情期……」
「あ?」
「何でもねぇよ。とにかく、覗き見るなんて行為はやめたほうが良いぞ。というよりするな」
「何でだよ、良いじゃん」
「ダメだ」
「まぁ、ケイの許可とる必要なんてないしな」
そう言って襖に手をかけるアダムをケイは慌てて止めた。
「待て待て待て!」
「邪魔すんなっての」
「邪魔するに決まってんだろ。お前は人の話を聞け」
「良いだろ、別に」
「何を根拠にしてんだよ」
「ハイドは俺を好きだから大丈夫」
「あのなぁ……」
ケイはついには頭痛までしてくる始末だ。
そんなケイに一瞥くれて、アダムは襖を開けようとする。
けれど、其れより早く襖が開いた。
「あれ、何しとんの、二人とも?」
湯上りのハイドが浴衣を着て出てきたのだ。
其の姿を見て、アダムとケイは言葉を失った。
髪を結い上げてるので露わになっている首筋や、覗く鎖骨らへんなどが薄く色づいている。
単なる浴衣姿なのに艶やかなこと此の上ない。
「ハイド……」
「ん?」
二人の状況に何も気付いてないハイドの肩にアダムは手を置いた。
そして唇を鎖骨あたりに寄せて強く吸い上げた。
アダムが唇を離すと、其処には一片の花弁が散る。
「アダムっ!?」
「ハイド、凄い綺麗」
「え、や、だからって……」
「お互い風呂にも入ったし此の侭――」
「はい待て」
ハイドの肩を抱いて場所を移動しようとするアダムの襟首をケイが掴んだ。
「ちょっ、邪魔すんなって」
「教育的指導」
「俺はガキじゃない」
「似たようなもんだ」
「何……!」
「なぁ、二人とも何してるん?」
ハイドの一声にアダムとケイが諍いをやめた。
「いや、此のガキにちょっと指導してやろうかと……」
「お前、同い年のくせに人をガキとか言うなよ」
「中身の問題だ」
「だから、結局、何がしたいん?」
二人が言い合う理由が自分だと気付かずに居る天然ハイド(アダム命名)
其れに何となく疲れを感じて、アダムとケイは一度顔を見合わせた後、離れた。
(今は一時休戦だな)
(そうだな)
アイコンタクトを交わして、ケイは風呂に、アダムは別室へ移動した。
「ハイドおいで」
アダムが呼ぶので、ハイドはちらとケイの方を見た後、アダムに近づいた。
「何?」
「俺が風呂に入ってる間、ケイと何話してた?」
「ん?えっと、夜に桜見に行こうって話してた」
「桜?ふーん……」
「アダムも行くやろ?」
「ああ、まぁ良いけど」
アダムが頷くと、部屋の入り口の方から「失礼します」という声が聞こえてきた。
「お料理をお持ちしました」
其の声と共に豪勢な料理がテーブルへと運ばれる。
時計を見れば、もう七時だった。
「それでは、ごゆっくりご賞味下さい」
そう言って仲居さんたちが出て行く。
其処へケイが風呂から上がったので、三人で食卓に着いた。
夕食を食べた後、三人は予定通り夜桜を見に外へ出ていた。
自然の多い旅館の周りには桜の見所が結構あるらしい。
其の中でも女将の教えてくれた人の少ない穴場を目指していた。
歩くこと暫く、遠く闇の中に明るいものが見えてくる。
其れはさわさわと風に揺れ、吹雪を起こしていた。
「わぁ……!綺麗!」
ハイドが駆け出して桜の下に向かうと、二人も其れを微笑ましく見詰めながら近づいていった。
其の桜は確かに見事なもので、ちょうど満開だった。
どんなに花弁が吹雪になり降ろうとも、枝にはまだまだ花が咲き誇っている。
「綺麗……凄い……」
そう言ってハイドが桜を見上げ、花に降られる情景、其れこそが美しいと二人は思っていた。
少し離れた所に居る二人をハイドが手招きして呼ぶ。
アダムとケイが近づくと、ハイドは二人の腕を取った。
「三人で、こんな綺麗な桜が見れて凄い嬉しい……」
「俺たちも嬉しいよ。な、ケイ?」
「ああ、本当に」
其の二人の言葉にハイドは破顔して、ケイとアダムの二人の頬に順番にキスをした。
すると、其のお返しとばかりに、二人はハイドの頬に左右からキスをする。
ハイドは少し照れたように、はにかんだ。
そして、三人は寄り添ったまま暫く桜を見上げていた。
夜桜見物から戻ってきて、夜も更けたということで敷かれていた布団にハイドがもぐりこんだ時。
「ハイド、待って」
とケイがストップをかけた。
「え、何?」
「はい、此れ着て」
「ん?」
ケイが差し出したものを受け取ると、其れはジャージだった。
「ハイド、浴衣で寝ると翌朝凄いことになってるから」
「俺としては、そっちの方が……痛っ」
ケイは不埒な発言をしたアダムの頭を小突いた。
「浴衣着て寝たかったのに……」
「朝起きて、肌晒してたらコイツが暴走するから」
「暴走って、俺は変態か」
「とにかく其れ着て寝な」
アダムの発言をスルーして忠告したケイに、ハイドは渋々ながらも着替えることを決めた。
ジャージをもって別室へ移動する。
「着替えるのに、いちいち部屋移動しなくても良いじゃん」
「ハイドは俺たちが相手でも恥ずかしいんだよ」
「でも、浴衣着て寝て肌をさらすのは構わなかったのかな?」
「というより、あの浴衣気に入ってるから、ずっと着たかっただけで次の日の朝のこと考えてなかったんだろ」
「流石、お兄ちゃん。よく分かってる」
「手の掛かる弟がいて大変だよ。――ハイドは別に構わないけど」
「ん?最後の方で何か言ってたような……」
「気にすんな」
そう言った所で襖が開いてジャージに着替えたハイドが戻ってきた。
其処でケイが声をかける。
「さ、寝るか」
「おやすみ」
「ハイド、おやすみのキスは?」
「え?」
「バカはほっとけ」
「おーい、今、『バカ』って聞こえたけど」
「そうか、気の所為だ」
「うわー、納得いかねぇ」
「おやすみ、アダム」
まだまだ小競り合いが続きそうだったので、ハイドはアダムの頬にキスをした。
そしてケイにも同じ様に。
「おやすみ、ケイ」
其れが済むと、ハイドは布団に入って寝息を立て始めた。
「お前、寝込み襲うなよ」
「分かったよ」
そんなやり取りをして、ケイとアダムも寝に入った。
次の日、チェックアウトをして旅館を出た。
行きと同じように運転はアダム。
けれど、ハイドとケイの座る場所が反対だった。
助手席にはケイが座り、後部座席ではハイドが眠り込んでいた。
「ハイド、喜んでくれて良かったな」
「ああ、桜の時期に来れて良かったよ」
「また来るか」
「今度は、もっと早く計画立てないとな」
「そうだな」
ケイの言葉に頷くと、アダムはミラー越しに後ろを見た。
同じ様にケイも後部座席に視線を向けた。
二人の視線の先には幸せそうに眠り込むハイド。
「「愛してる」」
打ち合わせてもないのに科白が被って、ケイとアダムはお互いに笑った。
聞こえてるはずは無いが、先の言葉を受けて、眠っているハイドの口元に笑みが浮かんだ。
窓を流れる景色には、短い生を誇りながら散る桜が何処までも続いていた。
end.
◆COMMENT◆
文月綾 様のサイト『Identity』様で掲示板カウンター7777HIT踏んで戴きました!
リク内容は「アダハイケイで温泉・浴衣ネタ」、位置関係はお任せで(^^*
今、巷で噂な美人処お三方の小説書いて戴きました♪
自分で書けないからと、こんなリクしてしまって本当に申し訳ないです。
hyちゃん、ここでもモテモテですなぁ(悦)
私もhydeさんが言っていた浴衣着て寝ると翌朝あられもない姿になっている・・・
ていう話気になってました。(笑)
浴衣は良いですよねー、乙ですねぇ。大好きですー(^^*
でもこんな素敵処が浴衣なんてもう鼻血だけでは済みませんな。
てゆか露天風呂っ・・・!!(帰ってきて下さい)
でもやっぱり楽しそうですね、この三人。
そりゃ素敵処勢ぞろいやし、普通の生活でもパラダイスにもなりますね!
こんな素敵なお話書いていただけて、本当にホクホクですvv
文月さん、リクに応えて素敵な小説書いて頂き本当に有難う御座いました!
2005.04.20
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